凶器
「そう、犯人はあの人しか考えられません」

 探偵が言いました。

「いいですか、細工の現場をよく状況を思い出してください。あの日、現場を訪れた人間は全部で8人。ですがその訪問の順番を考えると、細工ができた人物はたった一人しかいません。
そう、あの箱の持ち主、本人です!」

 探偵は得意そうに断言しましたが、被害者はただ黙って肩を落としています。
 そんなことには構わず、自慢げに鼻をうごめかしながら、
「いやいや、あまりに簡単な事件でした」
 と、大きく背を反らせていた探偵ですが、被害者が変わらず悲しみにくれているので、そっとその顔を覗き込みました。

「浮かない顔をしてどうしました?」

 せっかく犯人がわかったのです。
 文句のつけようのない、完璧な推理だったのです。
 探偵は拍手でも起こるものだと期待していました。
 いえ、拍手は大袈裟だとしても、感謝の言葉のひとつくらいあるものだと思ったのです。
 無事に解決、万々歳。一件落着。ハッピーエンド。
 どうしてそうならないのでしょう?

 すると、被害者はゆっくりと顔を上げ、呟きました。

「真相なんて、知りたくなかった」



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