え? あいつのどこに惚れたかって? うーん、サバサバしてるとこかな。基本的にブリっこが嫌いなもんでね。媚びを売ってくるようなのは苦手でさ。 けど別に冷たいってわけでもないんだぜ。「こっちにコイよ」とか言うともじもじしたりして。そんなとこが可愛いな、なーんてな。 なんだよ、いいだろ、のろけたって。おまえが振った話題だろが。 で、さあ。あいつって何かさ、華があるんだよ。カレイっつうの? アジがあるっつうの? 正直なところそんなに美人じゃないと思うけど、目が離せない。保護欲をそそる感じでさ、守ってやりタイ!とか思わせるんだよなあ。 あはは、そうそう、できるもんなら一日中キスしてたいね。「俺がいるから大丈夫だよ」とか言っちゃってさあ。冬なら抱きしめながらカジカんで震えてる体を暖めてやったりするわけよ。 あー、それに、真っ直ぐなんだよな、心根が。ほら、二ヶ月くらい前に俺の部屋に突然女が乗り込んできたことがあったろ? あのときも「あなたハゼったいに浮気なんてしないわ」ってな具合にさ、微塵も疑わなかったんだから。あれは胸ニシンみりきたね。 それに、おおボラこいたりなんて絶対しないしさ。優しいやつだよ、ほんとに。 へ? もしあいつに振られタラ? んー、考えたくもないけど、そうなったらサケに溺れるかもな。毎日飲んだくれて、あいつのいなくなった悲しみを忘れるしかねえだろ。で、そのまマグロっきーで人生おしまいになっても悔いはないね。それだけ俺にとってあいつの存在はでかいってことだ。 は? 俺とあいつの関係はそう長くない? おいおい、何てこと言うんだよ。あいつハマチがいなく俺に惚れてる、絶対だ。そして俺もあいつにぞっこんなんだよ。 ああっ、なんだよスズキサンマでそんなこと……ああ、寿命? たしかに、俺のほうが長生きするかもしれないけど…… (ppppppp......) あ、ごめん、ちょっと電話……と、なんだ? 実家から? はい、もしもし? ああ、うん、いま友達と飲んでる。 ――――え……!? わ、わかった、すすすす、すぐ帰るっ! 悪い、中村! 鈴木さんもほんとにすみません。ちょっとあいつの具合が悪いらしくって。 あ、金はここに置いとくから。 この埋め合わせはまた今度……じゃ、また! 分厚い書類の束でも入っていそうな鞄を脇に抱えて慌てて走り去る親友を眺めながら、中村と呼ばれた男はこっそりとため息をついた。こんなときが来るだろうとは、実はだいぶ前からわかっていたのだ。 (あいつももう立派な大人だし、悲しみはいずれ時間が解決してくれるさ) 中村はそうやって前向きに考えてきたけれど、あの溺愛ぶりを聞かされた後では、最悪の展開も脳裏をよぎる。月曜日に会社を休むようならやばいかもしれませんね、と、親友には上司と紹介しておいたカウンセラーの鈴木に囁いた。 「そうですね、最初にお話をうかがったときには、まさか後追い自殺まではと思っていましたが……」 「ありえるでしょう、あいつなら?」 「彼の場合、いささか一緒にいる時間が長すぎたのかもしれませんね」 「15年、か……縁日で買った金魚にしたら大往生だよなあ」 今度のため息は長く尾を引いた。 |
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